教えた覚えがないのにできていた理由|子どもの「吸収する精神」を生かす声かけ5選
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3歳の子が、積み木でお店を開いた。
色を聞き、品物を手に取るようにうながし、最後にきちんとお礼を言う。
接客の順番を、誰にも教わらずに再現していた。
そんな場面に遭遇したことはありませんか。
教えた覚えがないのに、できている。
これは偶然ではありません。
モンテッソーリが「吸収する精神」と呼んだ力が働いています。
そしてこの力には、親にとって大事な条件が一つあります。
吸収する対象が目の前にないと、働かないということです。
この記事では、その力がどのように働くのかを整理した上で、今日から使える5つの関わり方を、NGとOKの対比でお伝えします。
誰も教えていないのにできていること
一番分かりやすい例は言葉です。
私たちは、子どもに日本語の文法を教えていません。
それなのに、3歳にもなれば文を組み立てて話します。
『吸収する精神』の第3章に、こういう一節があります *1。
大人は頭を使って知識を得るけれども、子どもは知識を直接、自分の心に吸収してしまう。
ただ生きているだけで、母語を話せるようになる。
学ぶのではなく、吸い込む。
この力には、二つの段階があるとされています *2。
0歳から3歳ごろまでは、無意識の段階です。
周りにあるものを選ばずに、まるごと取り込みます。
言葉も、動きも、空気も、区別なく入っていく。
本人には、覚えているつもりはありません。
3歳から6歳ごろになると、意識的な段階に移ります。
ここからは、自分が気になったものを選んで取り込むようになります。
冒頭のお店屋さんごっこが3歳の子の話だったのは、たぶん偶然ではありません。
その子は、自分でそれを選んで見ていたのだと思います。
つまり、3歳を過ぎた子の前にあるものは、その子が選ぶための見本になっているということです。
あの台詞も、どこかで聞いたものです。
子どもが発明したわけではありません。
大人がやってしまうと、見る機会まで消えます
「自分でやったほうが早い」で大人が代わりにやるとき、失われているのは子どもが練習する機会だけではありません。
見る機会も、同時に消えています。
子どもが寝ている間に洗濯を回す。
いない時間に部屋を片づける。
そうすると、その作業はこの家に存在しないことになります。
服がいつのまにかたたまれていて、部屋がいつのまにか片づいている家に見える。
まるで魔法のようです。
吸収する力があっても、吸収する対象が目の前になければ働きません。
裏を返せば、特別なことをしなくてもいいということでもあります。
見せるだけで伝わるのですから。
吸収する精神を生かす声かけ5選
見せるときは、黙ってゆっくり
NG:「ここをこう持って、こうやって回すとね」
OK:(何も言わず、ゆっくり一度やって見せる)
言葉と動作を同時に出さない。
これはモンテッソーリの現場で徹底されていることです。
説明が始まると、子どもの目は手元から顔に移ります。
聞くことに意識が向いた瞬間、見ることが止まります。
伝えたいのが手順なら、見せるのは手の動きだけでいい。
大人が思っているよりずっとゆっくり動かすのが、こつです。
大人が働く場面を、隠さない
NG:子どもが寝てから、まとめて家事を済ませる
OK:1日に一つでいいので、見える時間にやる
全部を見せる必要はありません。
1日に一つでいいのです。
手伝わせなくてもかまいません。
そばで見守れる状態にするだけで、子どもの中に入っていきます。
洗濯物をたたむ。
野菜を切る。
靴をそろえる。
どれも、見せていなければこの家に存在しない作業です。
まねしはじめたら、途中で直さない
NG:「そこは違うよ、こうやるの」
OK:(最後までやらせて、見ていたことだけ伝える)
やり方が違っていても、途中で止めない。
直されたときに子どもが覚えるのは、正しい順番ではありません。
自分のやり方は間違っているらしい、という考えのほうです。
一度それを覚えると、次からは手を出さなくなります。
間違ったまま終わっても、困ることはほとんどありません。
繰り返すうちに、本人が気づきます。
言葉を、子ども向けに崩しすぎない
NG:「ブーブー、来たねえ」
OK:「バスが来たね」
吸収する精神は、聞いた言葉をそのまま取り込みます。
崩した言葉で話しかけると、崩した言葉のほうが入ります。
物の名前は、正しい名前で呼んであげてください。
花でも、虫でも、道具でも同じです。
子どもは、大人が思っているよりずっと難しい言葉を受け取れます。
「ありがとう」を、子どもにも言う
NG:「こういうときは、ありがとうって言うんだよ」
OK:「ありがとう、助かった」
お礼は、指示された回数ではなく、自分が言われた回数で覚えます。
冒頭のお店屋さんごっこで出てきた台詞も、どこかで聞いたものでした。
礼儀を教えたいなら、教える前に使うほうが早い。
これは「ごめんね」や「お願いします」も同じです。
5つに共通する原則
原則1:説明より、動作を見せる。言葉は目を手元から引きはがします。
原則2:見えないものは存在しない。1日に一つ、見える時間にやります。
原則3:途中で直さない。直すと覚えるのは、順番ではなく自信のなさです。
原則4:正しい言葉で話す。聞いた言葉が、そのまま入ります。
原則5:教える前に、自分が使う。礼儀は言われた回数で身に付きます。
見本になる環境を、家の中に置く
ここまでお読みになって、少し身構えた方もいるかもしれません。
全部見られている、と思うと気が重くなります。
ただ、裏を返せば、毎日の暮らしがそのまま教材だということでもあります。
特別な働きかけは要りません。
その上で、家の中に「子どもが自分で手に取れるもの」が並んでいると、吸収した動きを試す場所ができます。
見る、まねる、くり返す。
この3つがそろって、はじめて身に付きます。
見せるだけで試す場所がないと、子どもの手は大人の持ち物の方に伸びてしまいます。
そのために重要なのが、年齢と発達段階に合った教具や知育玩具を家庭に取り入れること。
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まとめ 5つのNG/OK
やり方を見せるとき
❌ NG:「ここをこう持って、こうやって回すとね」
⭕ OK:(何も言わず、ゆっくり一度やって見せる)
家事をするとき
❌ NG:子どもが寝てから、まとめて済ませる
⭕ OK:1日に一つでいいので、見える時間にやる
子どもがまねしはじめたとき
❌ NG:「そこは違うよ、こうやるの」
⭕ OK:(最後までやらせて、見ていたことだけ伝える)
物の名前を言うとき
❌ NG:「ブーブー、来たねえ」
⭕ OK:「バスが来たね」
礼儀を身に付けてほしいとき
❌ NG:「こういうときは、ありがとうって言うんだよ」
⭕ OK:「ありがとう、助かった」
今日は、何を見せる日にしますか
教えた覚えがないのにできていたら、それはどこかで見られていたということです。
怖い話でもありますが、救いのある話でもあります。
うまく教えられなかった日があっても、別の日の後ろ姿のほうが残っているかもしれない。
叱りすぎた夜より、黙って洗い物をしていた朝のほうが、その子の中に入っているかもしれません。
どちらが残るかは選べません。
選べないからこそ、構えなくていいのだと思います。
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引用元・参考
*1 マリア・モンテッソーリ『吸収する精神』第3章「成長の時期」(原文:It may be said that we acquire knowledge by using our minds; but the child absorbs knowledge directly into his psychic life. Simply by continuing to live, the child learns to speak his native tongue. p.36)
*2 こども学び情報局「子どもの『吸収精神』とは。モンテッソーリ教育で育む0〜6歳の力」(吸収する精神の二つの段階=0歳から3歳の無意識の段階/3歳から6歳の意識的な段階) https://kodomo-manabi-labo.net/emikambara_01