スマホ育児の罪悪感が軽くなる5つの工夫|モンテッソーリ式「動画との付き合い方」
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夕方の台所。夕飯を作らないと間に合わない。
足元では、ぐずり始めた子ども。
「ちょっとだけね」とスマホを渡すと、ぴたりと泣き止んで、小さな画面に吸い込まれていく。
その静けさにほっとして、そして夜、寝顔を見ながら少しだけ胸が痛む。
今日も動画に頼っちゃったな、と。
先に、数字をひとつ。
0〜6歳の子を持つ母親約1,900人への調査では、子どもの目の前で自分がスマホを使うことに罪悪感を感じる人は63.9%。
「手が空くと、子どもの前でもつい自分のスマホを見たくなってしまう」は75.7%でした *1。
罪悪感を抱えているのはあなただけではありません。
多数派です。
ここで、先に結論をお伝えします。
この記事では「動画をゼロにしましょう」とは言いません。
言わない理由も、科学とモンテッソーリの両方から説明します。
「頼っている」のは、みんな同じ
国の最新調査では、幼稚園・保育園に通う年代(0〜6歳)の子どもの68.8%がインターネットを利用しています *2。
利用している子の平日の利用時間は、平均で1日約1時間49分です。
親がスマホや動画に頼る場面は、
「家で静かに過ごしてほしいとき」
「電車やレストラン」
「ぐずったとき」
「家事のあいだ」
どれも約半数の親が経験しています *1。
さらに、子どもにデジタル機器を使わせる理由の上位は、
「子どもが使いたがるから」
「子どもが楽しめるから」でした *3。
親が楽をしたいからではないのです。
子どもが求め、生活が求め、その裏で親は今日もやりくりしている。
まず、そこから始めたいと思います。
科学は「時間」より「中身と一緒に」と言っている
もちろん、目安はあります。
WHO(世界保健機関)は2019年に、2歳未満には座ってのスクリーン視聴を推奨せず、2〜4歳は1日1時間以内、少ないほど良い、という指針を出しています *4。
でも、その先の研究が興味深いのです。
米国小児科学会は現在、「何時間見たか」だけでなく「何を、誰と、どんなふうに見たか」を重視する方向に舵を切っています *5。
東京大学で乳幼児の発達を研究する開一夫教授も、「視聴の是非より、視聴の仕方に気を付けること」と語っています *6。
データの裏付けもあります。
約1万9千人分のデータをまとめた分析によると、視聴時間の長さは、ことばの発達と小さなマイナスの関連がありました。
ところが、同じ分析で、教育的な内容を選ぶことと親が一緒に見ることは、むしろプラスの関連を示したのです *7。
日本で約7千組の親子を追った研究でも、ことばの遅れと関連が見られたのは1日4時間以上の視聴で、そこまで見ている子は全体の4.1%でした *8。
しかも、この研究は「教育的な内容とそれ以外を区別できなかった」と自ら限界を認めています。
どの研究も「関連」であって、動画が原因だと証明したものではありません。
ただ、流れははっきりしています。
問題は「見るか見ないか」ではなく、「何を、誰と、そのあと何をするか」です。
モンテッソーリなら、どう考えるか
モンテッソーリが生きた時代には、スマホはありませんでした。
でも、彼女が残した言葉は、この問題の核心を突いています。
ひとつ目。
マリア・モンテッソーリは、幼い子どもの心をこう説明しました *9。
「印象は、子どもの心に入り込むだけではない。心を形づくるのだ」と。
子どもは環境にあるものをまるごと吸収して、自分をつくる。
だとすれば、画面の中身も「環境の一部」です。何が映っているかを親が選ぶことには、モンテッソーリ的にはっきりと意味があります。
ふたつ目。
モンテッソーリの最も有名な言葉のひとつです *10。
「手は、人間の知性の道具である」
彼女はこうも書いています。
手を使わなくても知性はある水準まで育つが、手を使えば、さらに高い水準に達する、と *9。
そして三つ目が、いちばんお伝えしたい一節です *9。
「3歳の子どもは、いつも何かで遊んでいる。それは、取り込んだものを、手を使って自分の中で練り上げているのだ」。
見て取り込む。
手で練り上げる。
この2つはセットで、子どもの学びにつながります。
だったら答えはシンプルです。
動画を消すことに全力を使うのではなく、見たものを手に渡すこと。
おうちでできる5つの工夫
内容は親が選ぶ
「何見てるの」と後から覗くより、「次はこれ見ようか」と先に差し出す。
おすすめ係をアルゴリズムから親の手に取り戻すだけで、「吸収される環境」の質が変わります *3。
ときどきでいいから、隣で一緒に見る
発達心理学では、親子で同じものを見ながら言葉を交わす「共同注意」の場面が、ことばの習得を最も促すとされています *11。
全部でなくていいのです。
「この犬、大きいねえ」のひとことで、動画は会話の材料に変わります。
終わりを予告して迎えにいく
「切り替えが難しい」は、調査でも親の悩みの上位(75.3%)です *3。
コツは、急に消さないこと。
「ご飯の前までね」「この動画が終わったらおしまいね」と、先に予告する。
区切りが来たら「やめられたね」と一言。
先輩親の工夫には、「ご飯や出かける直前に見せて、終わりが自然に来るようにする」という知恵もありました *3。
現役保育士の実践では、途中で切り上げたいときこそ「もしよければ、いったん動画をやめて手伝ってくれないかな」と、子どもを一人の人として尊重してお願いする形が勧められています *12。
見たものを手に渡す
電車の動画に夢中なら、パズルで線路を作ってみる。
ダンスの動画なら、一緒に踊る。動物の動画なら、図鑑を開くか、散歩で本物を探す。
「見て取り込んだものを、手で練り上げる」というモンテッソーリの言葉を、そのまま暮らしに置き換えた形です。
動画が、実体験への入口になります。
「つけっぱなし」だけ、やめてみる
意外な研究をひとつ。
大人向けの番組がただ背景で流れているだけで、親子のやりとりの量と質の両方が下がった、という実験結果があります *13。
子どもが見ていなくても、です。
見るときは見る。
見ないときは消す。
メリハリだけで、家の中の会話が変わります。
うまくいかない日のための運用メモ
大阪大学などの研究チームは、2歳時に動画を長く見ていた子でも、1日30分ほどの外遊びを週6回できると、生活面への影響が大きく和らいだと報告しています *14。
動画を減らせなかった日は、ベランダでも公園でも、外の時間を少し足す。
引き算がうまくいかないなら、足し算でいいのです。
もちろん、守れない日もあるのは当然です。
うちの双子が小さかった頃はスマホこそありませんでしたが、テレビとビデオで、私も同じことで悩んでいました。
道具が変わっただけで、親の悩みは昔から同じなのですね。
「スマホに子守りをさせないで」の、本当の意味
2013年に日本小児科医会が出した有名なポスター「スマホに子守りをさせないで」をご存じの方もいらっしゃると思います *15。
実は、あのポスターの主眼は、「子どもに見せるな」ではありません。
当時は、親がスマホに夢中になって、子どものサインを見逃してしまうことへの警鐘として、あのポスターが作られたそうです。
責められているのは動画ではなく、「顔が画面ばかり向いている時間」の方。
だとしたら、やることは自分を責めることではなく、一日のどこかで画面から顔を上げて子どもと目を合わせる時間を作ることです。
「見たものを手に渡す」ときの、受け皿を用意する
ここまでお伝えしてきた5つの工夫のなかで、もっとも手応えを感じやすいのが「見たものを、手に渡す」です。
ただ、いざやろうとすると「渡す先」が家にないということが起こります。
電車の動画を見たあとに線路を作れる積み木があるか。
動物の動画を見たあとに手を動かせるものがあるか。
この受け皿があるかどうかで、動画のあとの時間はずいぶん変わります。
手を使って夢中になれるものが身近にあれば、子どもは画面から自然に離れていきます。
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この記事のまとめ
動画・スマホとの付き合い方、5つの工夫。
ひとつ。内容は親が選ぶ。おすすめ係をアルゴリズムから取り戻す。
ふたつ。ときどきでいいから、隣で一緒に見る。
みっつ。終わりを予告して、迎えに行く。急に消さない。
よっつ。見たものを、手に渡す。動画を実体験の入口にする。
いつつ。「つけっぱなし」だけ、やめてみる。
画面の中の世界も、手のひらの中の積み木も、どちらもお子さんの「環境」です。
選んで、ときどき隣に座って、見たものを手に渡す。
それだけで、動画は敵ではなく、世界への入口のひとつになります。
今日も動画に頼ったあなたの気持ちが、少しでも軽くなりますように。
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引用元
*1 橋元良明ほか「育児とICT」東京大学大学院情報学環紀要(2019)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/manage/wp-content/uploads/2019/03/35_2.pdf
*2 こども家庭庁「令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」速報(2026年2月)
https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_research/results-etc/r07
*3 ベネッセ教育総合研究所「乳幼児期から小学校低学年の親子のメディア活用調査」(2025)
https://benesse.jp/berd/jisedai/research/img/media_20250930.pdf
*4 WHO「5歳未満の子どもの身体活動・座位行動・睡眠ガイドライン」(2019)
https://www.who.int/publications/i/item/9789241550536
*5 米国小児科学会(AAP)「メディアと子ども」現行ガイダンス(2025年更新)
https://www.healthychildren.org/English/family-life/Media/Pages/kids-and-screen-time-how-to-use-the-5-cs-of-media-guidance.aspx
*6 開一夫教授(東京大学)コメント(時事ドットコム・2023)
https://www.jiji.com/jc/v8?id=2023KosodateDoga01
*7 Madigan, S. et al. (2020) JAMA Pediatrics(42研究・18,905人)
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2762864
*8 Takahashi, I. et al. (2023) JAMA Pediatrics(日本・7,097組)
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2808593
*9 マリア・モンテッソーリ『The Absorbent Mind(吸収する精神)』1949年版 pp.35-37, p.216(訳は筆者)
https://archive.org/details/absorbentmind031961mbp
*10 マリア・モンテッソーリ「手は人間の知性の道具である」(AMI=国際モンテッソーリ協会 公式引用ページ・訳は筆者)
https://montessori-ami.org/resource-library/quotes/montessori-0-3
*11 遠藤利彦教授(東京大学・発達心理学)「共同注意」解説(NHKすくすく子育て・2016)
https://www.sukusuku.com/contents/51217
*12 たまひよ「子どもがすんなり動画をやめる声かけ」(現役保育士でんちゃん先生・2022)
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=132176
*13 Kirkorian, H. L. et al. (2009) Child Development(実験研究)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19765004/
*14 大阪大学・浜松医科大学チームの縦断研究(2023・関西テレビ特集)
https://www.ktv.jp/news/feature/230301-smhikuji/
*15 日本小児科医会「スマホに子守りをさせないで」(2013・子どもとメディア委員会)
https://www.jpa-web.org/about/organization-chart/cm-committee/