旅先で子どもが急に頼もしくなる理由|モンテッソーリ式「旅育」で親ができる4つのこと
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旅行や帰省から帰ってきて、ふと思ったことはありませんか。
「この子、こんなに頼もしかったっけ」
自分の荷物を最後まで背負っていた。
靴を脱いでそろえていた。
頼んでいないのに、お皿を運んでいた。
家では見たことのない姿です。
結論からお伝えすると、それは旅で急に成長したからではありません。
家で毎日少しずつ積み重なっていた力が、旅先でやっと全部見えただけです。
この記事では、なぜ家では見えない力が旅先で見えるのかを、モンテッソーリ教育の考え方から解説します。
そのうえで、旅を子どもの成長の機会に変えるために親ができる4つのことを、具体的な場面とともにお伝えします。
ある親子の、旅の二日間
まず、ひとつの事例をご紹介します。
3歳の息子さんを連れて、電車を乗り継いで祖父母の家へ向かうことになったお母さん。
ご主人は仕事の都合で後から合流するため、往路は母子2人だけの旅でした。
出発の前の晩、お母さんは正直、気が重かったそうです。
荷物も多い。
途中でぐずったらどうしよう。
電車で騒いだら、周りに謝りっぱなしになるのではないか。
ところが持ち帰ったのは、謝り疲れではなく、ひとつの驚きでした。
荷造りから旅は始まっていた
前の晩、お母さんはひとつだけ、いつもと違うことをしていました。
荷造りを、息子さんと一緒にやったのです。
「電車の中で読む絵本、どれにする」
「水筒はどっちにする」
時間はかかります。
選んだ絵本は3冊から5冊になり、その後3冊に戻りました。
でも、自分で選んで自分で詰めたリュックを、息子さんは出発の朝、当たり前のように自分で背負いました。
お母さんが持とうとすると、「ぼくのだから、ぼくがもつ」と譲らなかったそうです。
これは、モンテッソーリが百年前に書き残した子どもの姿そのものです *1。
「子どもは、ただ歩くだけでは足りない。遠くまで歩き、重い荷物を運びたがる。人は歩くだけでなく、自分の荷を担うようにできているのだ」
自分の荷物を自分で持ちたがるのは、わがままではなく、育ちの衝動なのです。
駅では「きっぷやさん」になった
駅では、息子さんが切符係になりました。
小銭を入れる係。
改札で切符を通す係。
お母さんは時間に余裕を持って家を出て、息子さんのペースに付き合うことにしたそうです。
改札から出てきた切符を、息子さんは大事そうにリュックの前ポケットにしまいました。
モンテッソーリ教育には、有名な合言葉があります *2。
「ひとりでできるように、手伝ってね」
やってあげることではなく、自分でできるように環境と役割を整えること。
切符一枚でも、それは立派な「仕事」になります。
祖父母の家は、初めての教室だった
到着してからの二日間、お母さんは何度も目を疑ったそうです。
玄関で靴を脱いで、そろえる。
食事の前にコップとお箸を運ぶ。
朝、庭の水やりを最後まで手伝う。
台所に立って、おにぎりを握って「はい、ばあばのぶん」と配って回る。
おばあちゃんは目を丸くして、「この子、なんでもできるんだねえ」と何度も言ったそうです。
そして誰より驚いていたのは、お母さん本人でした。
家では、見たことのない姿だったからです。
モンテッソーリは、子どもが現実の生活の仕事を担うことを「日常生活の練習」と呼び、教育の土台に置きました *3。
「子どもの家では、現実の日々の生活が営まれ、家事のすべてが小さな子どもたちに委ねられる。
子どもたちは献身的に、正確に自分の務めを果たし、際立って落ち着き、品位を帯びていく」
靴をそろえる。
運ぶ。
注ぐ。
握る。
旅先で見せたその姿は、突然生えてきた力ではありません。
ただ、家では見えなかった。それだけなのです。
なぜ家では見えず、旅先では見えるのか
理由は、少し耳の痛い話になります。
家では、親が先回りしてしまうからです。
朝は時間がないから、靴は親がそろえる。
コップはこぼすと面倒だから、親が運ぶ。
荷物は動きが遅くなるから、親が持つ。
私にも覚えがあります。双子の息子たちが小さかった頃、時間に追われる毎日の中で、どれだけのことを「私がやったほうが早いから」と取り上げてきたことか。
今になって思い返す場面がいくつもあります。
モンテッソーリは、このことをはっきりと書いています *1。
「ひとりで歩ける子どもは、自分で歩かなければならない。子どもが自立を獲得した瞬間から、なお助け続けようとする大人は、子どもにとっての障害物になる」
障害物。
強い言葉です。
でも、旅は、この障害物を自然に乗り越えてくれます。
旅先では、親の手がふさがっているためです。
荷物を持ち、切符を探し、乗り換えを調べている間、子どもは自分の仕事を自分でやるしかない。
祖父母の家や旅先の宿には、家にある幼児用の便利グッズも、先回りの習慣もありません。
つまり旅は、家で積み重ねた「できる」を、初めて全部出せる場所なのです。
モンテッソーリは、子どもの発達をこんな言葉で表しました *1。
「発達とは、より大きな自立を次々と獲得していくことである。弓から放たれた矢のように、まっすぐ、確かに、力強く進んでいく」
矢は、放たれた瞬間から飛び続けています。
親が見ていても、見ていなくても。
旅先で目にする頼もしさは、その矢の軌跡がふっと見えた瞬間なのだと思います。
吉祥寺こどもの家の園長である百枝義雄さんは、子どもがなにをしたがっているのかを注意深く観察することに徹したと語り、子どもの中にある「自分を伸ばす力」を大人が信じることの大切さを説いています *4。
旅は、その観察と、信じて任せることを、親に半ば強制的に体験させてくれるスイッチなのかもしれません。
旅を成長の機会に変える、親ができる4つのこと
子どもに「役割」をひとつ渡す
旅行ジャーナリストで「旅育」の提唱者である村田和子さんは、旅で子どもの生きる力を育むメソッドのひとつに、役割や目標を設定して、達成したら褒めることを挙げています *5。
責任感や積極性が養われ、成功体験が自信につながるからです。
切符係。荷物係。地図係。おみやげ選び係。ひとつで十分です。
大人が手伝ったほうが早い役割ほど、子どもにとっては価値があります。
荷造りから参加してもらう
旅は出発した瞬間からではなく、荷造りから始まっています。
絵本はどれにするか。
水筒はどっちにするか。
自分で選んで自分で詰めたリュックは、子どもにとって「自分の荷物」になります。
だから背負うのです。
時間はかかります。その分だけ、前の晩を少し早めに始めてください。
時間に余裕を持って、先回りをやめる
子どもが自分でやる時間は、そのまま親が待つ時間です。
余裕のない予定を組むと、結局いつもどおり親が全部やることになります。
逆に言えば、余裕さえ確保すれば、あとは手を出さないだけで子どもは動きます。
遅い、を待てるかどうか。
旅育でいちばん大事なのは、この一点かもしれません。
帰り道に「できたこと」を数える
帰りの電車やクルマの中で、この旅で子どもが自分でやったことを、指を折って数えてみてください。
きっと、思っていたより多いはずです。
そして、それを本人に伝えてあげてください。
旅の記憶が「楽しかった」だけでなく「できた」として残ります。
ある親子の帰り道では、こんなことがありました。
駅の階段で、息子さんの歩みが急に遅くなった。
疲れたのかな、抱っこかなとお母さんが腰をかがめると、息子さんは首を振ってこう言ったそうです。
「ママがつかれてるから、ゆっくりあるいてあげてるの」
子どもの行動の理由は、いつも大人の想像の少し先にあります。遅いのではなく、待ってくれていた。できないのではなく、思いやっていた。観察して、初めて見えるものがあります。
データが示す、お手伝いと旅の力
感覚の話だけではありません。
国の機関が全国の子ども約1万4千人に行った調査では、お手伝いを多くしている子どもは自己肯定感が高い層が68.3%。
お手伝いが少ない子どもでは27.4%でした *6。
祖父母の家での時間にも、興味深い報告があります。
幼児と祖父母の交流を調べた研究では、祖父母と一緒に料理をする経験が、子どもの言葉の育ちと関連していたと報告されています *7。
おばあちゃんと握ったおにぎりは、微笑ましい思い出であると同時に、育ちの栄養でもあったわけです。
そして育てられているのは、子どもだけではありません。
世代間交流の研究をまとめた文献レビューでは、その効果が子どもと高齢者の双方に及ぶことが報告されています *9。
孫の「できた」に目を丸くする側にも、その時間は贈りものになっています。
東洋大学の森下晶美教授は、親子が共に過ごす時間は平日でわずか2時間19分にとどまる中で、家族旅行が家族の共通体験を作る機会になると指摘しています *8。
旅は、親子が朝から晩まで丸ごと一緒にいられる、数少ない時間です。
旅の「できた」を、おうちに持ち帰る環境づくり
ここまで旅の話をしてきましたが、もうひとつ大切な視点があります。
旅先で見えた「できる」を、家の毎日にどうつなげるかです。
旅から帰ると、暮らしはまた元の速度に戻ります。
朝は忙しく、親はまた先回りを始めます。
そこで変えるべきは、子どもではなく環境のほうです。
自分で取り出せる高さに物を置く。
選べるように2択にしておく。
手を動かして最後までやり遂げられる遊びを家の中に用意しておく。
旅先で「自分でできた」を味わった子どもは、その手ごたえを家でも探し始めます。
受け皿があるかどうかで、その後が変わります。
そのために重要なのが、年齢と発達段階に合った教具・知育玩具を家庭に取り入れること。
かち旅では、モンテッソーリ教育の理念をもとに、子どもの「自分でできた」を引き出す木製知育玩具を取り揃えています。
旅のおともや、帰省の手土産、祖父母から孫への贈りものとしても選ばれています。
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まとめ 旅育で親ができる4つのこと
役割を渡す
❌ NG:安全のために全部こちらでやる
⭕ OK:切符係、荷物係、地図係をひとつ任せる
荷造り
❌ NG:前の晩に親がまとめて詰める
⭕ OK:絵本と水筒を子どもに選ばせて、自分のリュックに詰めてもらう
移動中
❌ NG:遅いから手を貸す、間に合わないから抱き上げる
⭕ OK:余裕のある時間割を組んで、待つ
帰り道
❌ NG:騒がしかった、疲れた、で終わらせる
⭕ OK:自分でやったことを一緒に数えて、本人に伝える
旅は、子どもの「できた」の発表会
旅行や帰省の予定がある方は、小さな役割をひとつ、お子さんに渡してみてください。
切符でも、荷物でも、おみやげ選びでも。
そして帰り道に、この旅でお子さんが自分でやったことを数えてみてください。
「この子、こんなに頼もしかったっけ」
その驚きこそ、旅のいちばんのおみやげだと思います。
そしてその力は、旅で生まれたものではなく、あなたが家で積み重ねてきたものです。
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※本記事の事例について
本記事の事例は、複数のご家庭の特徴を組み合わせて再構築した創作的事例です。特定の個人・家族を描写したものではありません。素敵な気づきを共有してくださった、すべての親子の方々への敬意を込めて、お届けしています。
引用元
*1 マリア・モンテッソーリ『The Absorbent Mind(吸収する精神)』1949年版 p.122, pp.220-221(訳は筆者)。archive.org 原著全文 https://archive.org/details/absorbentmind031961mbp
*2 マリア・モンテッソーリ『From Childhood to Adolescence』p.67「Help me to do it alone!」(AMI=国際モンテッソーリ協会 公式引用ページ・訳は筆者) https://montessori-ami.org/resource-library/quotes/montessori-3-6
*3 マリア・モンテッソーリ『The Discovery of the Child(子どもの発見)』第4章 p.114(日常生活の練習の定義。訳は筆者)。archive.org 原著全文 https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.110354
*4 吉祥寺こどもの家 園長 百枝義雄氏インタビュー(マイナビ保育士「ほいくらし」) https://hoiku.mynavi.jp/contents/hoikurashi/special/interview/4768/
*5 村田和子氏(旅行ジャーナリスト)「旅育メソッド」(All About・本人執筆) https://allabout.co.jp/gm/gc/413156/
*6 国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度)」(お手伝いの多寡と自己肯定感) https://www.mext.go.jp/content/20220930-mxt_chisui02-000025230-7.pdf
*7 幼児と祖父母の世代間交流と発達の関連研究(みらい子育て研究助成論文集 vol.60・2024年度) https://www.my-kokoro.jp/publish/books/research-aid-paper/vol60_2024/pdf/mykokoro_research-aid_paper_60_15.pdf
*8 森下晶美教授(東洋大学国際観光学部)コラム(OVO・共同通信) https://ovo.kyodo.co.jp/news/biz/a-2070889
*9 高齢者と子どもの世代間交流プログラムの文献レビュー(日本地域看護学会誌 15巻1号・双方向の効果) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jachn/15/1/15_KJ00009436846/_article/-char/ja